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長野地方裁判所 昭和53年(行ウ)1号 決定 1980年1月30日

原告 マルタ工業株式会社

被告 国税不服審判所長

代理人 竹内康尋 奥原満雄 真島吉信 佐藤信幸 ほか二名

主文

一  被告国税不服審判所長の本件移送申立を却下する。

二  申立費用は、被告の負担とする。

理由

一  被告国税不服審判所長の申立の理由

1  行訴法(行政事件訴訟法をいう。以下同じ。)一二条一項によれば、行政庁を被告とする取消訴訟は、その行政庁の所在地の裁判所の管轄に属することになつているところ、被告国税不服審判所長の所在地は東京都千代田区霞ヶ関三―一―一であるからその管轄裁判所は東京地方裁判所である。

2  なお、同条三項で、事案の処理に当たつた下級行政機関の所在地にも提起することができるが、本件の事案の処理に当たつた下級行政機関は関東信越国税不服審判所長であり、その所在地も東京都千代田区大手町一―三―二である。

3  関東信越国税不服審判所長野支所は、関東信越国税不服審判所の下級行政機関ではなく、また本件審査請求事件の裁決に関する事案の処理にも当たつていないものであるから、行訴法一二条三項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当しない。

4  原告は、被告国税不服審判所長に対する訴訟(以下、本件訴訟という。)を被告伊那税務署長に対する訴訟と併合して提起しているが、本件訴訟は、行訴法一三条の関連請求にも当たらないから、本来併合請求の要件を欠き併合請求自体できないものである。

5  本件訴訟の経緯及び右に述べた移送申立の理由にかんがみれば、本件訴訟の移送申立は行訴法一二条、一三条の正しい法解釈に基づいて管轄権のある裁判所へ本件訴訟を移送させるべきであるという当然のことを述べているにすぎず、被告が本件訴訟を遅延させる目的を全く有していないことは自明であり、なんら移送申立権の濫用にあたるものではない。

6  以上に述べたとおり、本件訴訟について長野地方裁判所はその管轄権を有していないので、管轄裁判所である東京地方裁判所へ移送するよう申し立てる。

二  当裁判所の判断

1  被告国税不服審判所長に対する本件訴訟は、行訴法一二条三項の特別管轄の存否はさておき、同条一項の一般管轄によるかぎり、被告行政庁所在地の裁判所である東京地方裁判所の管轄に属することはいうまでもない。ところで、原告の被告伊那税務署長に対する重加算税賦課決定処分取消訴訟(以下、たんに取消訴訟という。)の一般管轄が行訴法一二条により当裁判所に属することは明らかであるところ、原告は取消訴訟に本件訴訟を併合して提起しているので、本件訴訟が取消訴訟と関連請求の関係にあるといえるならば、本件訴訟にも当然に当裁判所の管轄権が生ずることは同法一三条、一六条の規定にてらして明らかといわなければならない。

よつて、検討するに、本件記録によれば、本件訴訟は、そもそも原告が訴外東洋造機株式会社から購入したヒユーム管製造設備の実際の納入時と右訴外会社から原告宛に送付された納品書、請求書の時期とが異なつていたことから、原告が本来翌期においてなすべき、減価償却を一期早く行なつてしまつたことについて、被告伊那税務署長による二事業年度にわたる更正処分が同時になされたことに起因していること、取消訴訟は原告の昭和四八年九月一日から同四九年八月三一日までの事業年度分法人税についての重加算税賦課決定処分の取消を求めるものであり、本件訴訟は昭和四九年九月一日から同五〇年八月三一日までの事業年度分法人税についての審査裁決についての取消を求めるものであり、両処分はその課税年度が異なるものではあるが、両処分は相前後する複数の課税年度に関するものであるから、一方の課税年度における所得額の認定が他方の課税年度におけるそれに影響を及ぼすことが当然に予想されるという点で関連性があり、本件訴訟においては裁決固有の瑕疵が審判の対象となるのであるが、原告が右裁決の瑕疵として主張するところは、結局「審査請求書」を実体にてらして「更正の請求書」として取り扱わなかつた点であると解せられるのであるから、本件訴訟において本案の争点を判断するには原処分の内容の審理が必要であると予想されること、被告国税不服審判所長は、「原処分庁においては、前期分の裁決の内容により当期分の所得に影響を及ぼすことが予想される場合には、当期分について却下の裁決がなされるべき場合であつても、前期分についての裁決の趣旨に従い、あらためて処分し直さなければならないことがあり得るのであるから、複数の事業年度についての審査請求に対する裁決は、これを同時に処理するのが原則であるべきであるとともに、実務上の処理の見地からみても最も合理的なのである。」との理由から、原告の前期分に対する審査請求の棄却裁決及び当期分に対する審査請求の却下裁決を同日に行ない、各裁決書謄本の原告に対する送達も同日に行なつて同時処理したこと、などの事実が認められ、右の事実に行訴法一三条、一六条が関連請求に併合審理を許した趣旨をてらして考えると、同法一三条、一六条の関連の意味を広く解し本件訴訟は取消訴訟の関連請求にあたるものと解するのが相当である。

2  仮に、本件訴訟が取消訴訟の関連請求にあたらないとしても、前示のような事情にかんがみると、被告国税不服審判所長が本件訴訟について当裁判所において応訴することをかたくなに拒み、ひたすら東京地方裁判所への移送を申し立てることは、権利救済を求める原告の便宜を無視し、裁決においては同時処理したことと矛盾することになる反面取消訴訟と本件訴訟の各被告指定代理人が大部分共通であることからすると、被告の応訴に特に利便をもたらすものともいえないなどのことからして、もはや法の認めた訴訟手続上の権利の行使の範囲を逸脱したものであり、移送申立権の濫用にあたるものといわなければならない。

3  よつて、被告国税不服審判所長の移送申立は、理由がないものとしてこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 安田実 山下和明 三木勇次)

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